目覚めると俺は牢獄の中にいた。
したしたと滴る水音だけが聴こえる、岩戸のような、暗く静かな空間…『あの秘密』を知ってしまったがために、俺は囚われていたのだ。
俺はジェシーにその秘密を伝えなければならない。使命に燃え、脱獄を開始した。
次々に襲い掛かる黒服のエージェントたち。俺は同じく囚われの身だったリリィとともに、組織の施設を駆け抜けていく。
激闘だった。狙撃屋ジャック、デストロイヤー・アレックス、死神のウルフ…いずれも名の知れた殺し屋たちだ。
俺のベレッタの弾丸が、そいつらを撃ち抜くたび、俺の心にも弾丸が突き刺さるようだった。
…戦いの虚しさを感じ始めていたのさ。
俺たちは、黄泉の路に似た闇の地下道を進んだ。
そこに待ち受けていたのは…A級エージェント『ケルベロス』だった。
奴の放ったハンド・ナパームで地下道は炎に包まれる。死闘の末、俺の弾丸は奴の心臓を貫いた。
しかし、絶命の一瞬…奴は自爆装置を発動させた。『あの秘密』が外に漏れることは、奴らの組織の崩壊を意味するからだ。
リリィは足をやられていた。とてもふたりで脱出できる状態じゃない…。
…俺はリリィとともに身を焼かれるなら、それも構わないと思った。この虚しい闘いに終止符が打てるなら、それも構わないと思った。
だが、リリィは俺に銃を突きつけ、こう言ったのさ。
「私はあなたとは行けないわ。ともに死ぬというなら、ここで私があなたを撃つ…生き延びて」
俺は、走った。
炎熱の地下道を、ただひたすらに。
光が見えた。涙でかすむ目をこすりながら、俺はそこを目指し、さらに足を速めた。
そして…遅刻した。
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