『Perfect Smile』ライナーノーツ(麻枝 准)
本Blogは「ヘブンバーンズレッド」メインストーリー第五章中編の内容を含んでおりますので、あらかじめご了承ください。
01.闇夜のKomachi Vampire
ロンドン、霧…というキーワードから浮かんだのがB’zのLOVE PHANTOMだった。LOVE PHANTOMと言えば大学四年生の時、親友の中川に強引に連れていかれた『B’z LIVE-GYM Pleasure ’95 “BUZZ!!”』にて初披露された曲だ。その前年にはマイフェイバリットアルバム『The 7th Blues』も発売され、一番自分がB’zに夢中だった時期だ。まさに原点回帰となった曲。おれのデモにはなかったのだけど、松本孝弘と言えばダブルピッキングだ。それをアレンジャーの吉田さんがちゃんと取り入れてくれていたことに後になってから気付いて、粋に感じた。初めてカレンちゃん役の芹澤さんの声が乗った曲でもある。ジャケもカレンちゃんだし、一曲目としてパーフェクトだ。
02.Come on baby!
オーバーキル以降、メタルコアな曲を書いていないなと思って、オーストラリア発メタルコアバンドのPOLARISみたいな曲を書こう!と息巻いて作った。おれが大好きな2000年代初頭のメタルコアと違って、シーケンス音が乗っているのが特徴だ。多少はそれっぽく出来ただろうか。きっとライブ映えするだろうな、と思っていたら案の定でよかった。サビ終わりのこのみさんのカモンベイベー!の躍動感のある締め方は音源でもライブでもすごく光り輝いている。実にエンターテイナーだ。
03.本能寺、ドレスコードで。
エヴァやん。言い逃れ出来ないほどエヴァやん。このイベントストーリーも自分が書いている。エヴァやん。だが、それをめちゃくちゃポップに仕立てたつもり。アルバム用にマスタリングした後、久々に聴いたら「こんないい曲だったのか!」と驚いてこのポジションに置くことにした。ずっとラウドロックを謳ってきたが、アルバムのコピー通り、まさに新たな船出みたいな曲にも思えたから。曲名は、ともりるが参加している『25時、ナイトコードで。』から。バレたらSEGAに怒られそうだ。
04.華麗なる技法
インド、カレー…というキーワードから浮かんだのが平沢進のSim Cityというアルバム。平沢進っぽい曲はかつてプリマドールという作品にて『機械仕掛けの賛歌』で一度挑戦している。だがいまいちリスナーに伝わらなかった。そのリベンジ。自信があったから親友の中川に「見よ、この平沢進のフォロワーっぷりを」とこの楽曲を送ったら「平沢進の現代における解釈として大正解」と太鼓判を頂けた。歌詞が意味不明だとよく呟かれている。おれもラスト「開闢のあの朝に」の「開闢の~」のところをXAIさんに「ちゃんと開闢の朝に思いを馳せて!」とディレクションしておきながら自分でも開闢の朝がなんなのかわかっていない。謎なディレクションしてごめん。ほぼ全編にわたり31A声優さんにもコーラスで参加してもらっている贅沢な曲。古賀さんの声の抜けは武器だ。
05.This Game Needs Guns
なんで8bitみたいなオケで始まるのかと言うと、操作ミスですべてのトラックがなんのエフェクトもかかっていないGM音源のピアノだけで鳴ってしまって、そのチープさに良さを見いだしてしまったから。そのチープなところから突如としてリッチな音に化けたらカタルシスがあると考えた。そのような手法はScudelia Electroの『c-love-r ~しろつめくさ~』に見られる。歌詞はほとんど尾崎豊なのだが、ともりるのep『吐露』を聴いていた時期で、その中の『最低だ、僕は。』という曲のアンサーソング的な側面も持つ。
06.Melancholic Blue
シスター、教会…というキーワードから浮かんだのがオルガンから始まるB’zの『LOVE IS DEAD』という曲だ。ラスサビ前のジャジーな転調部分もそうだが、そもそもそこで「ラブイズデッド」と歌詞で種明かしをしている。しかしアレンジの方向性はメランコリックにするためオルガンは消え去り、シーケンス音が散りばめられるTM NETWORK方面へと舵を切り直した。ラスサビが三回もある。おれは大抵二回以内に収める。二回もくどく感じるのでワンハーフで終わらせることも多い。だが三回もあるということはそれほどこのサビメロに対して強固な自信があったのだろう。この曲でも31Aのコーラスが冴え渡っている。だからこそラスサビが三回あっても聴き飽きないのだろう。
07.ガラス越しのスペクタクル
まったく話題にならなかった曲。しかし久々に聴いたらおれは名曲だと思った。YouTubeのコメントを見たら、親の作ってくれるメシに文句言うな、とだけ書かれていた。『放課後のメロディ』並みにノスタルジックの塊のような曲だと思うのだけど…。そうか…人気ないのか…。このアルバムだと三本の指に入るほどお気に入りなのだけどな…。麻枝リフレインもかつてなく炸裂していて…いいと思うん…ですけど…再評価…期待しています…。
08.Dear R. Heinlein
BUMP OF CHICKENの『ファイター』みたいな曲を書こうとして生まれた。イントロやAメロとかその曲ありきだった。あの単純なコード進行に歴史上誰も思いつけないでいた極上のメロディを乗せてくるところが藤原基央のすごさ。『コロニー』や『ロストマン』でも思った。とにかくおれの中でいかに単純なコード進行に誰も思いつけなかったポップなメロディを乗せることが出来るか、それに挑戦した。Bメロが『贅沢な感情』のサビと一緒だと一部で囁かれていたが、全然気付いていなかった。誰も思いつけなかったどころか、過去の自分が思いついとるやん。
09.白の呪文
買い切りじゃない運営型のゲームならではの曲。まさか二章で蒼井が散るシーンの『White Spell』が、五章中編で朝倉可憐が最後に飲む白い錠剤(呪文)により眠り、裏の人格であるカレンちゃんが消え去るという配信開始時点では想定もしていなかったシーンとリンクするとは。ラスサビの後に大サビが付け足されているのは吉田さんのアレンジがあまりに盛られていたため「新しいメロディを展開させなくては!」と焦燥に駆られたからだ。そんな科学融合も楽しく、そして奇跡だ。
10.Perfect Goodbye
二、三日あればフルコーラスで一曲書いてしまうほど高速で作曲が出来る自分だが、この曲だけは半年近くかかった。おれはこのみさんにバラード曲を書く自信がなかった。あの誰をも幸せにするようなポジティブな歌声とおれの負のオーラしかない暗い曲は水と油、相容れないものと感じていたからだ。普段はレコンポーザというソフトでパソコンのキーボードだけを使って曲を作るのだけど、この曲だけは鍵盤を弾いた。左手でコード、右手でメロディ。久々に楽器を使った。カレンちゃんが作曲するのだから、おれぐらい拙いほうがいいと思ってだ。Aメロを作って、Bメロを作って、サビを作って…「いや、こうじゃない!」とすべてを捨て去り、またAメロから作って…ということを果てしなく繰り返した。ヘブバン史上一番苦労した曲だが「これならこのみさんに託せる…!」と自信のあるものが生み出せた。トゲナシトゲアリとの対バンの動画を見たが、この曲が披露された六分間がおれの中で2025年のクライマックスだった。ヘブバンが終わっても、この曲だけはずっと歌い続けて欲しい。『一番の宝物』みたいに。
11.Arch of Light Alternative
最初にリリースしたArch of Lightはラスサビが長くてダレてしまっていた。だからコンパクトにまとめた形でないとアルバムに収録したくなかった。そうして満を持してお送りすることが出来た。XAIさんもこのみさんもこの曲の歌詞に共感してくれていただけに、そうしたかった。「あの日のふたりはあまりに無敵だった」このフレーズが、未来になって「確かにそうだった」と振り返ることの出来る思い出になるように。その日は必ずやってくる。すでにおれはヘブバンというドラマをラストシーンまで書ききってしまっているから。三百人キャパの小さなドサ回りライブハウスツアーから始まって、今はアリーナクラスでライブが出来るまで人気を博したふたりが、また別々の道を歩み始めるまで。ふたりには何度も伝えているけど、その時間は本当におれの生き甲斐だったよ。
12.Moon Day Real Escape
おれは今みんなが普通に使う「エモい」という言葉に抵抗感がある。なぜなら1990年代後期に台頭したSunny Day Real Estate、Mineral、Braid、Penfold、Jimmy Eat World、The Get Up kids、Texas Is the Reasonといったエモとくくられるジャンルのバンドたちの音楽性に対して当時のリスナーたちがすでに「エモい」と使っていたからだ。おれにとって「エモい」とは音楽性を表す言葉なのだ。そしてこの曲は曲名からわかる通り、Sunny Day Real Estateだ。その代表曲の『Seven』だ。『さよならの速度』がPenfoldの『I’ll Take You Everywhere』だったように、おれはここでも「エモ」をやりたかった。それだけだ。
13.美しい花咲く丘で
「酷い曲だ」という不快感をあなたはこれまで聴いてきた音楽の中で抱いたことが一度としてあっただろうか?Merzbowのようなノイズミュージックや、PIG DESTROYERのようなグラインドコアや、フリージャズ移行後のずっと解決へ向かわないジョン・コルトレーンを聴いたらそう思うこともあるかもしれない。だがこれはそんな無秩序な曲ではない。ノイズも不協和音もない。コード進行も実にシンプルだ。なのにこの曲は『酷い曲』という烙印を一部で押された。けどいいじゃないか。そんな忌み嫌われる曲でも、どこかの誰かにはぶっ刺さるのだ。流行り廃りで忘れ去られる曲より、醜くても誰かの記憶に残り続ける曲を書いていきたい。
14.複葉機とオールトの雲
ほとんど言いたいことは麻枝准×やなぎなぎ「Welcome to the Dying Season」のライナーノーツに書いてしまっているのでそちらを読んで欲しい。原曲で「完璧な歌詞が書けた!」という手応えがあって、さらに別バージョンを書くのは血反吐が出るほどしんどかった。曲を作るのは速いが、歌詞を書くのは遅い。初稿なら一日あれば上がるが、そこから第二稿、第三稿、第四稿…とまるでアニメの脚本のようにブラッシュアップを重ねていくからだ。そしてオノマトペの数よ!オリジナルのオールトの雲と合わせていくつある!?もうおれからなんも出てこない…今はすべて絞りきった歯磨き粉のチューブのような状態で居る。
https://key.soundslabel.com/discography.html?ksl0226/ksl0226
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