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白い霧を抜けて、登り切った先に『それ』はある。
どこまでも続きそうな、一面の花畑。
色とりどりの花々が鼻腔をくすぐる、とても綺麗な花畑。
――そこにはいつも、君がいた。

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【乙原】「あ……」
タクシーの後部座席に乗っていたのは、一人の若い女性。
【乙原】「おはようございます！」
【喰木】「ああ」
タクシーが走り出す。車窓の景色が流れ始める。
【乙原】「あ、あの……」
【乙原】「担当している案件が早朝までかかりまして、ちょうど会社に戻る途中だったんです」

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【喰木】「……『リムーバー』緊急モード」
『Ｅｍｅｒｇｅｎｃｙ　Ｍｏｄｅ』という表示が現れ赤く点滅する。警告音が鳴り響く。
ハードケースのロックが自動で外れ、中から白い装置が現れる。
俺はその装置を取り出し正面に向ける。

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【百花】「あ～……むっ」
【喰木】「……どうだ？」
【百花】「ん～、おいしい～！」
【百花】「パリッとした食感のあとに、舌先にピリリと来る辛味、そのあと噛みしめるほどに甘辛い旨味が口の中に濃厚に広がる～！」
【喰木】「よ、よかったな」
幸せそうに駄菓子を食べる彼女を見ながら、どこかほっとしている自分に気づく。

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【百花】「むにゃ……ギーくん……」
背中では、百花が寝言を言う。
実体のない彼女から、体温や吐息を感じることはない。
だがそれでも、寝言が近いとなんだかこそばゆい。
それは、温度のない、ぬくもり。
【百花】「……ギーくんは、がんばりやさん……わたし、ちゃんと、知ってる……」
【喰木】「…………」
【百花】「ギーくんは、ギーくん……なんにも、変わらない……よね……」
【喰木】「……変わったさ」

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手前のソファーに、少しだけ『足』のようなものが見える。
ニュッと突き出た素足。片方はサンダル履きだ。
【喰木】「こいつ……寝ているのか？　勤務中だぞ」
【喰木】「……起きてください」
声を掛けながら、女性の肩を軽く揺さぶる。
【薄野】「んう？　ふわぁ……」

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ＡＤＯＮＩＳネットワークの開発後、首都の広大な海上に一から作られたのが、この東亜ＡＲ特別区――通称『０ゼロ区』だ。
この０ゼロ区は、すべてがＡＲを前提としてインフラが設計されており、レストランのメニューや屋外のサイネージだけなく、道路標識や信号機に至るまで、すべてが徹底してＡＲオブジェクトになっている。

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行政区画上は首都でありながら大自然に囲まれた山間の地方。
そのためＯＣＴＡオクタが行政区画内に属している事に驚く人の割合が圧倒的だ。
登山客でにぎわう観光地だが町の人口は年々減っているらしく問題となっている。

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【都市広報】『アドバンスド・リアリティ――いわゆる〈ＡＲ〉は、私たちの世界に絶大な恩恵をもたらしました』
【都市広報】『今世紀の初頭に考案された、拡張現実、アドバンスド・リアリティ『ＡＲ』という概念はその名のとおり『ＸＲ』や『ＭＲ』など名前を変えながら私たちの現実を今でも拡張し続けています』
【都市広報】『その技術を発展させ、人々の生活を進化させるまでに作り上げたのが『Administrator of Nanomachine Internet System』――すなわち〈ＡＤＯＮＩＳ〉です』