プリマドール・アンコール
01-03 あんぱんと自律人形(3)

「灰桜は、パン屋で働いているの?」

 素朴な疑問を口にすると、きょとんとした声が帰ってきた。

「いや、あんぱんを売っていたから」

 なにやら深い事情があるらしい。
 ボクは居住まいを正すと、彼女の声に耳を傾けようとした。
 彼女がここにいたるまで、それはそれは大きな波乱があったのだろうか……?


 真剣な様子で視線を向けてくる。

「うっかり全部食べちゃったとか?」
「えっと……うっかりパンを落としちゃったとか?」
「うっかりお金を落としたとか」

 ぴくっと体を震わせる。


 どうやら図星だったらしい。

「なるほど、それでアルバイトして、パンを買うお金を捻出していたと」
「それなら、大成功だね。休憩はこの辺にしておこう」
「バイト代のパンを貰いにいかないと」

 2人して立ち上がる。


*       *       *

 桜並木の先、坂道をすこしくだった先。
 そこに小さなパン屋さんがのぼりを揚げていた。



 灰桜はパン屋さんの前で、困惑した声を上げる。

「頑張ってくれたからねえ、おまけしておくよ」

 朗らかな声を返すのは、初老の女店主だ。


 食パン2本の入った紙袋が合計2袋。
 だいたい1本は3斤なので、合計12斤の食パンをもらった格好だ。

「貰っておきなよ。ほら、半分持つよ」

「灰桜が務めている喫茶店、興味があるんだ。案内してくれるかい?」



執筆:丘野塔也 挿絵:まろやか CV:和氣あず未(灰桜)
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