開発日記其の七拾
行ってきました! 中川の結婚式! 今回はそのリポートです!(なんの開発日誌だ?)
まず、松山まで陸路で行くのは、時間がかかりすぎることがわかり、前々日にて、「飛行機でもやぶさかではない」ということを、忙しい新郎に告げ、「結婚式参列計画2(超ビギナーモード)」というレポートを中川に作成させ送ってもらう。(ちなみに結婚式参列計画1は陸路コースであった)
ちなみに飛行機に乗るのは初めて。
しかも高所恐怖症。
あんな鉄の塊が飛ぶわけがない!!派の人間です。
でも陸路では5時間のところ、空路では、1時間。いくらデビルサヴァイバーが面白いといっても、往復にして8時間の差は多忙な自分にとっては、迷う余地はない!
が、緊張しすぎて、眠れず、朝7時に起きる。
何度かトイレに行って、タクシーを拾い、まず新大阪へ。(ここでまず梅田に行くほうが早いのだが、そちらは煩雑なのだ)
そこから「リムジンバス」なるリッチなバスに乗車し、伊丹空港へ。
JALに辿り着く。
が、慌てることはない。中川が作成してくれた、「結婚式参列計画2(超ビギナーモード)」には、自動券売機でのチケットの買い方が事細かに記されている。
迷うことなく、チケットをゲット!
緊張のため、1時間も前に辿り着いていたので、カフェに入り、生ビールを呑む。
きっとアルコールが緊張感も緩和してくれることだろう…。
そもそも結婚式に参席することさえ初めてなのだ。35歳にして。いかに友達がいないかがわかってもらえるだろう…。
時間になり、トイレを済ませ、ゲートをくぐろうとしたところで違和感。
右後ろポケットにいつも感じる重みがない!
そこには財布が!!
体中をはたいて探すも、ないないない!!
切符に飽きたらず、財布までなくしてしまうとは!!
クレジットカードとか、郵貯カードとか、免許証とか、保険証とか、現金も結構…
とにかく、財布を落としたら、とにかく面倒らしい。
つかそもそも一銭もなしに、松山へは飛べない。
考えられるのは、さっきのカッフェか?
来た道を駆ける!
JAL内を駆け抜ける!
カッフェに辿り着くと、自分の席にはファミリーが座っていた。
自分がお盆を返したカウンターを見ても、ない。
ない、ない、ない…
「あ、もしかして、おにーさん、あれですか?」
と、ファミリーのパパがおれに話しかけてくれる。
「財布忘れましたか?」
「はい!」
「店員にお渡ししましたよ」
…なんという幸運!
日本の少子化に立ち向かうべく編成されたアットホームなファミリーの大黒柱たるパパは、おれの財布を店員に落とし物として預けてくださったのだ!!
これが、少子化なんて関係あるかい、おれは孤独で結構、ひとりで生きていくんじゃい、お、大金、ラッキー!というような心ない人に拾われていたらば、金だけかすめ取られて、財布は二度と見つからないような場所に捨てられていたことだろう。
店員がやってくる。
「お名前は?」
「まえだじゅんです!」
「間違いありませんね。どうぞ」
財布が無事返ってくる。
ありがとうございます! ありがとうございます!と、店員や、日本の少子化に立ち向かうべく編成されたアットホームなファミリーに頭を下げ、カッフェを立ち去る。
全力疾走で汗をかきながら、入場。
まず荷物検査。
中川作成の「結婚式参列計画2(超ビギナーモード)」にペットボトルはダメ、と書いてあったから、先に飲み干し捨てておいた。中で買いなおす。
23番という端っこのゲートの前で椅子に座って待つ。
大阪は朝から雨だ。
松山も雨なのだろう。
傘を差しながらの参列になるのだろうな。
時間になり、ゲートをくぐり、雨の降りしきる中、搭乗。
飛行機が予想以上に小さくてびびる。
あのいわゆる、ジャンボジェット機というやつじゃないのか…。
プロペラ機なのか、へー…。
乗れる人数も少ない。へー…。
松山までは1時間。
発着時と、着地時の15分は電気機は使ってはいけないとのこと。デビルサヴァイバーがほとんどできないじゃん、と思いきや、眼下に広がる光景が…
まさにAIR!!
美しい…。
こんな風景も写真でしか知らずに生きてきたんだなあ…
なんて35歳だ…。
その後、緊張して昨夜寝られなかったせいか、ぐっすり眠ってしまった…。
気づいたら、松山に到着していた!!
なんの恐怖もなかった!!
飛行機を克服した!!
やったーー!!
さらにここから、リムジンバスというリッチなバスに乗り、松山駅まで移動。
松山駅とJR松山駅は別なのか? ドキドキしながら、JR松山駅を通過。
最終、松山駅に辿り着いた! やたーーー!!
ここからは中川作成の「結婚式参列計画2(超ビギナーモード)」によると、タクシーで移動。
「道後のいさにわ神社まで」と運ちゃんに告げる。
「観光ですかー、ちょうどさっきまで○○がありましてー、こちらでしたら、道後温泉は浸かっておいて損はないですよー、で、正岡子規がなんたらうんちゃら~」
へー、ほーと返すものの、おれにとってはどーでもいい話が続く。
おれは、中川の結婚式に参席しにきたのだ。それ以外にはまったく興味がない!! 観光なんぞまったくせず帰る!! ここがラスベガスだろうが、ロンドンのアビイ・ロードであろうが、それは同じだ!!
松山では、機関車が、道路の真ん中を走っていた。
記念にぱしゃり☆
旅を満喫などしていなーい!!
こんなのが走ってたら、邪魔だろうなーと思っただけだ。
ついに、そのいさにわ神社という、一回聞いただけでは覚えられそうもない、三日後にはいわさわだっけ?とか勘違いしそうな名の、きっと名高い神社に着く。
こんな感じ。
この神社で、挙式が行われるのだ。
雨はぴたりと止んでいた。
まだ30分以上ある。
それっぽい人たちが集まってくる。
みんな親族の方だろう。
雨が止んでよかったことをみんな喜び合っている。
うむ、本当に良かった。
しかし…
みなさん、黒いスーツ(礼服)を着ている…。
おれはというと、ちょっとグレーが入ってるんですが…あとストライプも…。
やべ…浮いてる…おれだけ茶髪だし…
(この時中川の嫁さんからは、「あの人がまえださん? 茶髪だし…顔、青白いけど大丈夫?」と心配されていたらしい。どれだけおれの移動に不安があるかを旦那から聞かされたいたようだ/汗)
教えてgooか、yahoo知恵袋で調べてくるんだった…(汗
でも、黒のスーツなんて持ってないんだけど…
すると、開始寸前になって、同い年ぐらいの男性二名現れる。
地元の友達なんだろう。だが、ふたりも、真っ黒いスーツであった!
おれ浮いてね?
大丈夫かね?
「よろしければ、始めます」
と、神社の神主さん(実際には神主さんではないかもしれんが)が告げる。
「みなさん、お並びください」
と集められる。
そのまま、神社の中に通されていく。
これはおれたちも行っていいのか?と若い三人が目を合わせる。
「行かなきゃ、来た意味ないでしょっ」とおれが戦陣切って、親族のみが通されることが許される敷居を跨ぐ。
が、神主に、
「お友達はそこで待っててください」
と、端っこに追いやられる!!
そりゃそうだよなぁ…椅子も何もかも親族のぶんしか用意してないもんなぁ…友達が混ざれるはずがない(汗
厳かに挙式が始まる。
こんな感じ。
そりゃ、こんな中に友達のおれが座っていたら、不自然だわな(汗
残る中川の友達のふたりは、ひとりはロッチの片方に似てたので、ロッチくんとし、もう片方は、アンジャッシュの片方に似てなくもないため、アンジャッシュくんと以後呼ぶが、そのふたりはおれより後ろで縮こまっていたのだが…
「ここからは写真を撮ってもよいですよ」
という神主の合図を聞いて、あれだけ目立たないように端っこにいたアンジャッシュくんのほうが、そこは跨いではいけないのではないのか!?という敷居を跨ぎ、親族ゾーンへと進入!!
なんて思いっきりの良さだ!! アンジャッシュくん!!
しかし、ここは乗らない手はない!!
おれも続いた!!
真横から撮る!
親族のみなさん、すみません、へんなのがうろついて!
中川が、誓いの言葉を読み上げる。
誓いのことば
謹んで申し上げます
ただいま大神の御前でわたしたちは婚礼をおこないました
これより後は本日の感激を終生忘れることなくお互いに苦楽をわかち全幅の信頼と愛情を捧げて立派な生涯を送りたいと厳粛な気持でお誓いいたします
そして指輪の交換。
戻ってくるふたり。
おれはこんな勇ましい顔をした中川を見たことがない。
いつだってあいつはアウトローで、他人を斜に見ていたのだ。
なのに、なんたる堂々たる姿だ!
昔だったら、こんな奴ら、ふたりで笑ってたのに!
ふたりで笑ってた側なのに!
いつのまにおまえは、そっち側に行っちまったんだ!?
生涯をふたりで送ることを誓うなんて、簡単にできないんだぞ?
すごいことを今、おまえは誓ったんだぞ? それがわかってるのか!?
守るものを持った顔だ。
もう新婦はご懐妊。8月に第一子誕生の予定。
遠いよ、中川…。
もっと遊ぼうぜぇ…。
中川のお母さんとお父さんが挨拶しにきてくれた。
思ってみなかったので、あたふたしてしまって、どうして真っ先に「このたびは誠におめでとうございます」とちゃんと言えなかったのか、それが悔やまれる。
中川はおれのことをどう親御さんに話してくれてるんだろうか。
おれから「たぶん、一番親しい友達です」と言うしかなかった。
正確には「おれからは、一番親しい友達です」なのだけど。
じゃないと、同じく挙式に呼ばれたロッチくんとアンジャッシュくんの手前、申し訳ないではないか。抜け駆けのようではないか。
でも、そう言いたかった。そう信じていたし、だから言った。
それはもう…といった感じで、畏まってくださり、大変恐縮した。
よく考えたら、ここに居る人たちはみんな地元の人たちで、海を越えて来たのはおれだけなんじゃないのか?
みんな車で移動する時も、「ひとりで大丈夫?」と中川のお母さんは気を遣ってくれた。
大丈夫です。息子さんが前日に急遽作ってくださった「結婚式参列計画2(超ビギナーモード)」がありますから!とは言えなかったが、大丈夫です、と伝えた。
長い石段を下り、タクシーを捕まえ、披露宴式場へ。
式自体が30分ぐらい早く始まったため、受付開始まで20分ぐらいある。
寒いが会場の前で待つことにする。
隣には、なに党か知らないが政党の事務所があり、テレビカメラがわんさと押し掛けていた。
ひたすら20分待ち、15時きっかりに中へ。
受付にはこんなものが。
鳥羽Pめ! 憎いことをしやがるぜ。(今回唯一のAngel Beats!関連の話題)
待合室に通される。
おれひとりしかいないではないか、ホワーイ?
ロッチくんとアンジャッシュくんは?
これはほとんど埋まることなく、1時間後、「披露宴のご用意が整いましたので、上へお願いしま~す!」と告げられ、会場となる部屋へ移動。
『英』というテーブル。
中川が先に「麻枝がひとりきりでも大丈夫な席」を用意しておいてくれたというのだが…
隣にはアンジャッシュくーん! その向こうはロッチ! おう、いえー!(そんなハイタッチはやらなかったが)
アンジャッシュくんはすごく好青年で(中川と同い年ならひとつ上だが)、気を遣ってくれて、何遍もビールを注いでくれる。
話を聞くと、ふたりは中川と高校生時代の友達らしい。
おれは当たり前を装って、「じゃ、おふたりも結婚されてるんですね?」と訊くと、案の定、当たり前のように「はい」と返ってきた。
これが一般ピープルなのだ! ひきこもりクリエイターとは住む世界が違うぜ!!
新郎新婦登場。
ちなみにこのテーブルの残り4方はTSUTAYA関係者であった。
Angel Beats!をよろしくお願いします!と言おうとしたが、伝わらないだろうから、やめておいた。
ケーキ入刀。
そして、「新郎から食べさせてやってください」ドッキリにも、対応するこの柔和な表情。
おれにはできねー! 中川よ、おまえは本当におれの知ってる中川なのか!?
衣装替えをして現れる新郎新婦。
やっぱ花嫁はウェディングドレスだよね。
美しかったです。
そして、さっきから大変美味しい料理にまったく手つかず状態になっている、隣のロッチくん&アンジャッシュくん。
見ると、それぞれ手にベースとギターを持っているではないか!
「マックスで緊張してます」とのこと。どうも、演奏して歌うらしい。
「中川の好きな曲をやるんですか?」と訊くと、
「もちろんです」と。
なにやるんだろ…。
「中川がカラオケでよく歌っていたNight of the Knifeです」
誰も知らねーーー!!
おれひとりが「ラストシングル! ヒュー!」と奇声を上げて盛り上げていた…。
すると、ここからもドッキリで、アンジャッシュくんが、
「僕たち二番の歌詞は知りません。ここからは中川くんに歌ってもらいましょう」という展開に…。
何が起ころうとこの日は大人の対応を見せ続ける中川。美声を響かせる。
おれがその曲を知っていたことに驚いたのか、大仕事を終え、テーブルに戻ってきたアンジャッシュくんは、おれに、
「中川からTMが好きっての聞かされてたんですか?」
と訊かれる(苦笑。もちろんこの人たちは、Kimellaの存在も、中川が殺伐ラジオに出たことも、おれが今アニメを作ってることも知らない。彼らからすれば大学時代からの友達のひとりでしかない。
最後のデザート。そういや、美味しい料理の写真をひとつも撮っていなかったことに気づく。撮っておく。
これも食べかけだけどね(汗
ふたりのヒストリーが中川編集のビデオで流される。
おれの知らない高校時代の中川だ。弓道をしている。中川にも高校時代や中学時代があったのか。不思議な気持ちだ。
披露宴ももう終わり。
ふたりが、すべてのテーブルの蝋燭に火を灯して回る。
最後にふたりの蝋燭に火を灯す。
ちなみにここで流れていたBGMは、ムーンライダースの「幸せの洪水の前で」。おれしかわからねー!(汗
クライマックスは、新婦からご家族への手紙。
おれはここから涙が出て、止まらなかった。
ロッチくんやアンジャッシュくんにも、顔を向けられなかった。
なんで泣いてんの?と不思議がらせそうで。
おれにもよくわからない。
ひたすら、ナプキンで涙をぬぐい続けた。
最後に、お互いの両親にお礼を言うふたり。
その背中が本当に遠い。
なあ、中川。
いつのまに大人になっちまったんだい?
いつまでだって遊んでられると思ってたのに。
いつのまに、守るべき人を見つけて、子供を宿して、家族なんて…そんな当時のおれたちからしたら鼻で笑ってしまうようなものを築こうと思ったんだい?
14年前、大学を卒業し、おれたちは別々の道をスタートして、それでも音楽とオタクな話だけは盛り上がれて、会えばいつまでも大学生気分でいられたのに。
おまえは、それを卒業しちまうんだな。
もちろん、それはめでたいことだ。
それが普通の生き方なんだから。
でも、おれひとりが泣いてるのはなんでなんだろう?
寂しいのかな?
おれは取り残されてしまったのかな?
いや、いつまでもおれのように、独り身でぐだぐだと生きていくんだろうな、普通の幸せとは無縁でいるんだろな、と思っていた唯一の親友が、幸せになってくれて…それで嬉しいんだ。
これは、嬉し泣きだ。
おれは、結局片づけが始まるまで、ひとり会場に残っていた。
「閉めますんで」と係りの人に言われ、ようやく立ち上がり、最後に会場を出た。
見送りしてくれるふたりを前にしたら…
また…
目頭が熱くなって…
涙が止めどなく溢れた。
涙を必死でぬぐうおれがいた。
中川がおれを見て、
「なんで、おまえが泣いてんのや」
と笑った。
あの日、14年も前。
大学を卒業して、スタートしたお互いの暮らし。感性だけは合っていたけど、生きるのが果てしなく下手くそだったふたり。ひたすら好きな音楽を語り合っていただけのふたり。幸せなんてものとは縁遠かったふたり。そのひとりがそのゴールに辿り着いたんだ。
泣けないわけがない。
おれは新婦の手をとった。そして、
「中川をお願いします」
と頭を下げた。
それが中川の嫁さんに初めて言った、そして今回残せた、唯一の言葉だった。
会場を後にして、帰りのタクシーの中でも涙は止まらなかった。
平成22年3月6日ホテルJALシティ松山披露宴会場にて中川と